乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

今、このタイミングで、酪農家が牛舎を新築するには

懇意にしている酪農家が搾乳ロボット牛舎を新築する計画があると相談を受けました。

 

その件で、幅広い専門家を招いて検討会をするということで、僕も呼ばれました。

 

検討会に招かれたのは、僕の他には、牛舎設計のプロ、飼料設計から酪農経営まで幅広い守備範囲のコンサルタント、経営について造詣の深い企業担当者といった面々です。

 

検討会の会場には、経営主の酪農に対する想いが盛り込まれたプレゼン資料や今後の経営方針が盛り込まれた図面が用意されていました。

 

なぜ、牛舎新築を計画するようになったかの経緯や想いが述べられたあとに、具体的な設計検討会に入りました。

当初の計画から、今回の生乳生産抑制が大きく影を落とし、設計変更を余儀なくされたということでした。

 

検討会では、牛舎の向きやレイアウトなど、大きな修正の提案が出てきました。それ以外にも、人やウシの動線や日々の労務システムについても疑問や改善案が多数出されました。

 

やはり、多くの目で観た方が、改善箇所は多く出てきます。

経営主は素直に聞き入れ、方針変換をした方が良いと思われるところについては、当初プランの撤回も含めて検討していきました。

 

他者の意見に耳を傾け、最終的には自分で決断する、この難しい作業に経営主は一つ一つ誠実に、勇気を持ってのぞんでいました。

こういった場面で、その人の人間力が試されます。

 

膨大なインプットと、多岐にわたる決断の数々で、会に参加した誰もが疲労困憊だったと思います(少なくとも僕はそうでした)。

 

そうやって無駄をそぎ落としても、総負債を搾乳牛頭数で割ると、一頭当たりが抱える負債総額は膨大な額になりました。

これは、現在、牛舎を新築するという厳しい事実です。

物価高、燃料高、人件費高、円安・・・

 

ウシのストレスをなくし、快適な牛舎にするためには面積的なゆとりが必要になりますし、快適性を担保する換気扇や水槽、ベッドに敷くマットなどはケチることはできません。

ですが、そうやって快適な牛舎にしていくと、コストは雪だるまのように増えていきます。

 

それらのシビアな数字を目の当たりにすると、「なんとなく」や「補助金が付いたから」といった軽いきっかけで、決断できる金額ではありませんでした。

 

酪農産業や日本経済の構造的な課題が、牛舎新築検討会に参加して見えてきたように思います。

長年、負債を抱えず一生懸命に経営をしてきた経営主であっても、容易に牛舎を新築することができない時代に突入してしまったということを、検討会では否応なく感じました。

彼にはぜひ成功してもらいたいですし、失敗してもらいたくありません。

微力でもサポートできればと思っています。

 

↓牛舎の新築は一大事業です(別の酪農場にて)