今日は酪農の技術的な話です。
牛には、反芻するという、大切な仕事があります。
反芻とは、一度食べたエサを吐き戻し、細かくなるまで再度咀嚼する活動です。
どれくらい細かくなるまで、反芻を繰り返すかというと、ヒツジでは約1mm、牛では数mmと考えられています。この長さを、臨界粒度と呼びます。
この大きさになるまで、飼料は、第一胃(ルーメン)から通過することができません。第一胃と第二胃、第三胃の巧妙な連係プレーによって、大きな飼料粒子はルーメンに戻され、臨界粒度以下の細かい粒子は、第四胃以降へと流されていく、仕組みになっているからです。
その証拠に、糞を水で洗って、繊維の長さをみると、8~9割は臨界粒度以下です(第四胃以降には、歯が生えていないので、基本的に繊維粒子がそれ以上細かくなりません)。
糞の中にみられる臨界粒度よりも長い粒子は、例外的と言って良いでしょう。
さて、反芻を刺激するためには、飼料の繊維含有量とある程度の長さが必要です。少なくとも、臨界粒度よりも長くなくてはいけません。臨界粒度以下だと、反芻される必要がないので、そのままルーメンを通過していってしまうからです。
この繊維の長さを、物理的有効度と呼びます。
エサに含まれる繊維の長さ(物理的有効度)が適切かどうかを調べる道具が、アメリカのペンシルバニア州立大学の研究チームによって開発されています。
それが、PSPS(ペンステートパーティクルセパレーター)です。
かっこいい名称に、何か特別な道具を思い浮かべるかもしれませんが、PSPSは、いくつかの大きさの穴が空いたフルイを、何段か重ねたものに過ぎません。
最新のPSPSは、4段構成で、1番上が19mmの穴、2段目が8mmの穴、3段目が4mmの穴になっていて、最後が受け皿です。
この研究は1990年代後半から始められて、現在でも、研究は続いています。
その背景は、次のようなものです。
牛は、草食動物のくせに、草をあまり好きではありません。
穀物と草を混ぜて与えると、牛たちは、草の長い繊維を残し、穀物の粒ばかりを選んで食べます。これを選択採食と呼びます。
ヒトもそうですが、おいしいからといって、甘いものや脂っこいものばかり食べていると健康に良くありません。
牛も同じで、好きなだからといって穀物ばかり食べさせると、ルーメンの調子が悪くなってしまいます。代表的なルーメンの不調に、pHが酸性に傾き過ぎたアシドーシスがあります。
長すぎる繊維は、物理的有効度は高いけど、牛に選り分けられてしまう。そこで、繊維をある程度短くして、穀物と混ぜてやらなくてはいけません。
しかし、繊維を短くし過ぎると、反芻されずにルーメンを素通りして、流れていってしまいます。
このように、牛に与えるエサに含まれる、繊維の長さは、慎重に決めてやらなくてはいけません。
それを計測する道具が、PSPSです。
最新版が出たということで、今年の卒論研究で使ってみようと、2台購入しました。
このての研究用機材は大体が高価なのですが、ご多分に漏れず、PSPSもがっくりするくらい高かったです。
そして、届いて驚きましたが、マニュアルは英語の論文のような冊子でした。
私はたまたま専門の研究分野が一致するので、原文でも理解できますが、そうでなければさっぱり解読できないのではないでしょうか。
これをペラッと付けて、和訳は一切無しという、商売。。。
値段といい、日本語での情報の少なさといい、PSPS、なかなか敷居の高い道具です。。。
私の研究室は、酪農生産現場に出る学生が多いので、PSPSを用いて飼料の粒度を計測する技術を身に付けさせてあげようと思います。