ウシの基本的なエサはもちろん草です。
しかし、放牧のように青草を食べさせることは一部の地域や時期に限られます。
土地条件や気象の関係で、牧草を収穫したら貯蔵しないと年間を通して給与することはできません。
↓秋の重要作業、トウモロコシの収穫風景
牧草の貯蔵法として身近なところでは、乾草(干し草)が挙げられますが、近年の主な貯蔵飼料としてはサイレージが基本です。牧草を乳酸発酵させたものがサイレージですが、この貯蔵法については以前紹介しました。
今日の午前中に十勝の農業団体の方がお見えになって、どのようなサイレージがウシの胃の健康にとって望ましいのか、その辺のポイントを生産者に解説してくれないかという依頼がありました。
とてもありがたい話しなので、お受けしたいと伝えました。
それと同時に、最近読んだ酪農雑誌の記事が頭をよぎり、日本もイギリスも同じ思いを抱えているのだなと感じました。
数ヶ月に一度送られてくるアメリカの雑誌がありますが、その最新号でイギリスの酪農家に対するサイレージ調製(収穫して、貯蔵するところまでを調製といいます)に関する意識調査がありました。
調査結果からいくつかのことが読み取れます。
外部からの購入飼料コストが上昇しているので、自家産の牧草を今以上に活用して飼料コストの削減に努めたいという農家さんが、9割に上っていました。
一方で、牧草は植えっぱなしではドンドン雑草化していきますので、定期的な草地更新(再播種)が必要になります。雑草は栄養価が低く、ウシの嗜好性も悪いです。草食動物といっても、ウシは結構贅沢で、好きな草、嫌いな草がはっきりしてます(^^;)
しかし、草地更新は金もかかるし、何よりメンドクサイので、イギリスでは「約半数の牧場では、保有する圃場面積に対して毎年5%以下の面積しか草地更新をしない」ということです。
また、サイレージ調製のためには乳酸菌を活用して乳酸発酵させなくてはいけません。そのためには、牧草を空気から遮断する必要があります。牧草を収穫してきて積み上げたら速やかに密封して空気を追い出し、嫌気的な状態を作りだします。牧草の上からビニルシートをかぶせて、重しを乗せて空気を追い出すのです。
合わせて、乳酸菌のエサとなる糖分が必要なので、牧草中の糖含量にも気を配る必要があります。
しかし、イギリスでは「40%の酪農家しか、牧草中の糖が乳酸に変化することや、酸素を追い出すことが乳酸発酵に必要だということを理解していない」そうです。
乳酸発酵がうまくいかないと、pHが下がらないため、不良発酵が進み、極端な場合は牧サイレージが腐ったりカビが生えてしまいます。こうなるとウシはそのサイレージを食べなくなりますし、それでも無理矢理食べさせると健康を害してしまいます。
つまり、イギリスでは草地更新を怠り、サイレージ調製のための知識を有さずに不良発酵サイレージを作っている農家が少なくない、ということがわかります。不良発酵サイレージは牛が食べず廃棄する部分の比率が高まるので、結果的に不足分は購入飼料を与えることになり、飼料コストが上昇してしまいます。
飼料費を削りたいという思いとは裏腹のことをやってしまっているということです。
イギリスでは「収穫から貯蔵まで」というキャンペーンを実施して、酪農家さんへの情報提供をしていくという文で記事は締めくくられています。
欧米の酪農家は進んでいると思っていましたが、実際はそれほどでもないことが、この記事から分かります。
「良い草を作る」、このことが牛飼いの本質であり、洋の東西を問わない普遍的なテーマなのですね。
International Dairy Topics 16 (2): P27