私は変わった子どもで、少年時代から戦争物の歴史が大好きでした。
かっこいい戦車にあこがれたり、一方で悲惨な物語を読んで胸を苦しめたり、といったような子どもでした。
ですから、当然、日本の731部隊が行った悪行についても知っていました。
中国人を人ではなく、「丸太」と呼ぶことで、罪悪感をなくし、恐ろしい人体実験を行った、医者を中心とした狂気の部隊、それが731部隊です。
そのドキュメンタリーが放映される。
恐ろしい新事実が放映されるのかと思ってチャンネルを合わせたところ、そうではありませんでした。
敗戦が確定すると、部隊の上層部は、証拠を隠蔽して、一目散に日本に逃げ帰りました。彼らは、製薬会社の重役、大学教授、などエリート層に返り咲いたそうです。もともとが、医学部出身のエリートですから。
一方で、中にはソ連軍に捕まってしまい、軍事裁判にかけられ、刑に服した上層部の軍医たちもいました。
昨日は、彼らの裁判での証言が、音声テープとなって、番組で紹介されました(番組自体は再放送らしいですが)。
ある上級軍医は、収容所で懲役20年の刑を言い渡され、その刑期を終え帰国間近に自ら命を絶ちました。
彼には、大陸に渡るとき、4歳の長女と2歳の弟がいました。
その軍医の、裁判での肉声がテープで残っていました。
今回、老齢になったご子息が、父の遺した裁判での肉声を初めて耳にしたのです。
彼らは、写真や、収容所から送られてきた手紙で、父の存在を認識していたそうですが、記憶は全くないそうです。
その父親が、裁判の終わりに、最後の一言を述べる機会を与えられます。
彼は次のようなことを語りました。(細かい数字や言葉は大まかです)
「私には、日本に80歳の年老いた母がいる。妻と幼い娘、息子がいる。
私は、中国人に対して、恐ろしい悪行をおこなってしまった。
もし生まれ変わることが、許されるならば、医学の力を、人類の幸せのために、役立てることに尽くしたい。」
と静かに、力強く語っていました。
音声の状態が良く、まるですぐそこで、語っているかのようでした。
堂々とした、立派な言葉です。おそらく彼は、今の私よりも年下だったはずです。
このような熱い魂のこもった言葉を聞いたご子息はどう思ったでしょうか。
また、裁かれた軍医は、家族が自分の言葉を聞くことになると、想像していたでしょうか。
あのような場面では、女々しいことを言って、命乞いをすることも十分にあるでしょう。
上官の命令であるのだから、私に罪はないと言うことも出来たでしょう。
しかし、あの父である軍医は、一切の泣き言を言いませんでした。
そして、その言葉が、70年の時を経て、肉親に届いたのです。
あの言葉を聞いて、父のことを誇りに思わない家族はいないでしょう。
妻の口癖、お天道様はみている
まさにこのことなのかもしれません。
私も、いついかなるときでも、恥じない人生を送りたい、強く思いました。
731部隊の描き方、このような切り口があろうとは。
絶対におこなってはいけない非道な行為、しかし、その史実の中からでも気づきが存在することもある。
いろいろな意味で勉強になり、魂を揺さぶられた夜でした。