今日は技術的なお話です。
私たちの農場では、自給粗飼料を作っています。
自給粗飼料というのは、牛のエサとしての、牧草やトウモロコシのことです。
牧草やトウモロコシは、畑から収穫し、切り刻み、コンクリートのサイロに詰め込みます。サイロに詰め込まれた、粗飼料は、天然の乳酸菌で発酵が進み、サイレージになります。
サイレージは、乳酸を豊富に含む、「漬け物」のようなものです。
さて、昨年秋に収穫した、トウモロコシサイレージを年明けに開封しました。それまで使っていた、2016年産を全て使い尽くしたからです。
私たちは、サイレージの化学成分を、分析に出します。
分析結果が上がってきて、私は驚きました。
トウモロコシサイレージは、子実(いわゆるトウキビの部分)と、茎や葉っぱを全て切り刻んで、作ります。
分析結果を見ると、デンプンの含量が極端に低かったのです。
代わりに、繊維含量が高く、エネルギー価を表すTDNという項目も、低い値となっていました。
いくつか理由が考えられますが、このサイロに詰めたトウモロコシが生育していた畑では、実よりも、茎葉の発育が旺盛になりすぎたようです。
実の主成分はデンプン、茎葉の主成分は繊維です。
実の入りが悪く繊維ばかりになったのか、
子実は適切に発育していたが、それ以上に茎や葉の発育が良すぎたのか、
どちらかの現象が生じていたのでしょう。
その結果、実よりも茎と葉の比率が高まったと推測されます。
デンプンは、繊維と比べて、エネルギー価が高いので、そのデンプン含量が低いことが、TDNを低下させた原因です。
さて、このサイレージを使って、飼料設計をしたのですが、これがなかなかやっかいでした。
同じ量のトウモロコシサイレージを与えるメニューを組んだとしても、栄養価の低いサイレージだと、そこから供給できる栄養素が減ってしまうからです。
普段なら茶碗一杯のご飯を食べるだけで必要な栄養がまかなえるが、
今年のお米は栄養価が低いから、2杯食べてください、と言われても困りますよね。
そんなに食べられないよー、と。
したがって、量を増やさず、与える栄養の量も確保するためには、今回開封したサイレージを減らして、栄養濃度の高い穀物を与えたくなります。
しかし、そうすると、牛に与える繊維の量が減ってしまい、体調を崩すかもしれません。
サイレージの給与量を減らすことは、もう一つの問題が生じます。
飼料設計を担当する私には、次の収穫までにサイロを空にするという、絶対に守らなくてはいけない使命があります。
来夏の牧草収穫時期に、サイロが空いていないと、刈り取った牧草の行き場がなくなるからです。
別のもので置き換えると楽だけど、使わないわけにはいかない。
なかなか厳しい飼料設計となりました。
飼料設計で頭を悩ませているとき、
これって、この冬の妻のボヤキに似ているな、と感じました。
野菜の価格がむちゃくちゃ高い、使わないと家計的には楽だけど、家族の健康を考えると食材として使わないわけにいかない。
ウシもヒトも、栄養を預かるものは、料理を食べてくれる人のことを考えて、常に頭を悩ませている。
今日は、そんな話でした。