乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

牛乳の流通、その摩訶不思議な仕組み

先週で子供たちは終業式。

今週から、学乳といって、給食用の牛乳が不要になります。

さらに、ここ数年の乳生産の増量のかけ声の下、生産量も右肩上がりで上がってきており、牛乳が余り気味になってきました。

 

そんなわけで、北海道では乳製品が過剰在庫となってしまい、この年末年始にも5000トンもの生乳が廃棄されるのではないか、という危機感が高まっています。

 

牛乳は巨大で複雑な生産、流通の過程を経ます。

 

たとえば、今年のように品質の良い草が取れると、ウシはその草から栄養をたくさん吸収するので地域の乳生産量は増えます。

 

国が牛舎を建てるための補助金を手厚くすると、農家は安価で牛舎を建てることができます。ですが、安価といえど借金を背負うので、ウシの数を増やして酪農場の乳生産量を増やして、借金返済に努めます。

これも地域の乳生産量が増えることにつながります。

 

牛乳が不足気味になると、乳代といって牛乳1kg当たりの単価が上昇します。

乳代が上昇すると、経営的にチャンスですから酪農家はたくさんの牛乳を搾ろうとするので、これまた地域の乳生産量は増える方向に向かいます。

 

一方で、乳生産量が増えても、例えば冷夏でアイスクリームなどの消費が減ると牛乳の需要は減ります。

学校が長期休暇に入ると、学乳がなくなるのでやはり牛乳の需要は減ります。

 

個々の酪農家はそういった牛乳の需要をみて、自分の牧場の乳生産量を減らすといったような調整を考えることはしません。

酪農家はウシを健康にかい、良質な牛乳を生産することに集中するだけで精一杯なので、牛乳を売ることまでは考える余裕がありません。


牛乳を売るのはホクレンなどの指定団体や乳業メーカーの役割になります。

このように、作り手と売り手が別々になっているところに、農業とラーメン屋のような商売の決定的な違いがあるということになります。

 

牛乳販売を担う団体や組織は地域や国レベルでの需給状況をみながら牛乳の受入や調達を調節します。

個々の農家レベルと巨大な流通経路との間に、いくつもの段階があるので、生産量と販売量の間に微妙なズレが生じてしまうのです。

このズレによって、今回のように牛乳が余ったり、また昨年までのように乳製品の品薄が発生したりするというわけです。

 

水が洗面器からあふれそうになったので水道の蛇口を締めようとしているけど、蛇口が重くて急に締められずに、洗面器から水があふれ出しそうになっている状況、それが今の牛乳余りのイメージになります。

 

あるいは、ビールの泡がグラスからあふれそうになって盛り上がっているので、あわててビールを注ぐ量を減らしている状況といっても良いかもしれません。

泡をこぼすことなくグラスで受け止めきれるか、泡がグラスからこぼれてしまうか。

 

ビールの泡がこぼれないように唇を付けて泡をすすっているのが、私たち消費者、ビール(牛乳)を注いでいるのが酪農家です。


注ぎ手の酪農家は、あふれそうなのでビール瓶の傾きを緩めています。

ビールのグラスが表面張力で持ちこたえられるか、こぼれてしまうか、ギリギリのガンバリが続いています。

老若男女のみなさん、ビールならぬ牛乳をグビグビ飲みましょう。

 

↓子牛はミルクを大量に飲みます!

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