乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

酪農をシステムで考える:俯瞰的なモノゴトのとらえ方を学ぶ

帯広にセミナー受講のため出張できています。
帰りの列車の待ち時間。

時間をつぶそうと喫茶店を探します。

 

私は、21年前にここ十勝の酪農家で牧場実習生として1年間働きました。
休みになると帯広の街に出て、アーケード商店街に店を構えているおいしいコーヒーを飲ませる喫茶店に足を運びました。店名は覚えていないのですが、2階に上がっていく店で、帰りには背伸びをして深煎りのコーヒー豆を買って帰ったものです。

 

そこで一息つこうと探しましたが、見当たりません。
通りにはテナント募集の看板が掲げられた空き店舗がたくさんあったので、お気に入りの喫茶店も店をたたんでしまったのでしょうね。

これはなにも地方都市に限ったことではありません。私の住む札幌でも、経済の停滞を感じずにはいられないです。
出張で東京に行くと、その格差に愕然とします。
政府にはもっとがんばってもらいたいものです。

 

↓卒論実験の一コマ

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セミナー後の交流会での気づき

 さてさて、昨日と今日は酪農に関する様々な情報に触れることができました。
夜は、こういった場でしか会えない大勢の関係者と情報交換ができ、日頃お世話になっている方にお礼を兼ねての交流の場を持つことができました。

卒業して6年目、群馬で酪農経営をしているI君や卒業生K君の上司にも会えましたし、私の出身大学の後輩にも会え、たくさんの刺激を受けました。

 

その場で、私をかわいがってくれる年配の農業改良普及員のKさんからおもしろい話を聴きました。

 

搾乳ロボットというものがあります。
人の代わりに機械が自動で搾乳をしてくれるというシロモノです。


私とI君が搾乳ロボットは開発が進み性能は上がっているのでしょうか、というような疑問をKさんにぶつけたところ、とても示唆に富む答えが返ってきました。

 

「搾乳ロボット」という機械にだけ焦点を当てて考えても無意味である。
「搾乳ロボット」-「エサ」-「牛舎施設」を三角形で考えないといけない。
三角形の真ん中に「ウシ」がいる。


ウシが健康であれば、最大限の乳生産をもたらしてくれる。乳生産の最大化は利益の最大化をもたらす。
その目標を達成するためであれば、一つの機械に過ぎない搾乳ロボットにだけ的を絞って考えていても片手落ちである。


「自動搾乳システム」として、全体像を把握して、全てのパーツがうまく回るようにシステムを構築することが重要である。

という話でした。

 

私のような専門家は、ややもすると自分の専門分野からの視点で話をしてしまいがちです。私の場合では栄養学やエサの分野になります。

 

しかし、酪農はトータルで考えないといけない。

奇しくも、私の実習牧場の親方は「酪農は総合職だ」が口癖でしたが、それと同じことを昨日の普及員も強調していました。

 

彼はまた、ウシは小麦である、というたとえ話もしてくれました。

ウシは小麦の本体で、ミルクは小麦の実(小麦粉)と考えることができる。

エサは肥料で、牛舎施設は土だ。

いくら肥料をたくさんやっても、肝心の土がガチガチに乾燥していたり、ズブズブにぬかるんでいれば、小麦は育たず、小麦粉の収穫高も少ない。

これも先ほどのシステムの考え方と同じです。

 

話は多方面にわたり、酪農家の存在意義についても語ってくれました。

酪農家は、ウシを飼うだけではないのだ。
たくさん稼ぎ、いっぱいエサや機械を買い、従業員を雇用することで、地域の経済や業界全体を養っている。

だから、酪農家には稼いでもらわないとダメなんだ、と。

一見すると酪農家が無駄遣いしているように思える資材や施設であっても、それは回り回って業界を潤すことになっている。

これもある意味、業界全体をシステムととらえた発想です。

 

業界の真髄を学ぶことができるのが、アルコールの入った交流会の利点です。

「専門バカ」にならないためには、このようなキョーレツなインプットの場は大切です。

 

セミナーを受講するだけではなく、アフターの交流会に参加することで得られた貴重な経験なので、早速アウトプットしてみました。