乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

2019アメリカ酪農学会報告

 

今回のアメリカで開催された学会ですが、酪農科学学会という、乳牛専門の学会になります。

日本では、私たちが所属する最大の学会は日本畜産学会なので、乳牛、肉牛、ブタ、トリなど畜産全般が対象となります。

乳牛専門の学会があるということからしても、アメリカにおける酪農の地位がわかります。

 

興味深かった発表がいくつもありましたが、その中から今日は2題を紹介したいと思います。

 

インディアナ州から来ていた、Wernertさんたちの研究では「分娩前の乾乳期に日長周期のリズムを乱すと血糖値は下がるが、乳量は増える」というユニークな研究成果を報告していました。

 

分娩予定日の5週間前から、2つの処理に16頭ずつの牛を割り付けました。
対照群として、明期(昼に相当)を16時間、暗期(夜に相当)を8時間とし、その時間帯は固定ました。

(牛舎は窓を閉め切って、灯りをコントロールできるようにしたそうです)


一方、試験群は時差ボケと同じように、3日ごとに6時間ずつ昼の時間帯(裏を返すと夜の時間帯)をずらしていきました。

 

イメージとしては、3日ごとに、時差が6時間ある国へ海外旅行に飛び回り続けたということになります。

 

その結果、試験処理によって採食量に違いはありませんでしたが、時差ボケ牛は、血糖値が下がって乳量と乳脂率が有意に増加しました。

 

時差ボケによって、体内のエネルギーが乳生産に効率よく回されたという結果です。

これはとても興味深い結果でした。

というのも、時差ボケ牛はストレスを感じているのは確実です。
これまで、私が教わってきたのは、ウシはストレスを感じると乳量が下がるというものでした。

ですが、今回の実験では逆の結果になったのです。

時差ボケは、普段以上に血糖を乳生産に回していたと推測されます。
このメカニズムは不明ですが、私は交感神経が関係しているのかなと想像しました。
この研究が論文になるのであれば、著者らの考察が楽しみです。

 

放牧と搾乳ロボットを組み合わせた研究報告もありました。
オーストラリアのLyonsさんたちの発表でした。
放牧と搾乳ロボットの組み合わせが盛んな、オーストラリア、ニュージーランドおよびアイルランドの合わせて17牧場のデータを解析した研究です。

 

ここでの調査農場では、搾乳ロボットは牛舎に設置されていて、放牧地からウシが戻ってきて牛乳を搾られるというスタイルです。

結果は、搾乳ロボット内の濃厚飼料摂取量の日間変動が大きくなるほど、乳量が減るということが示されていました。

 

毎日、同じだけエサを食べているウシの乳量は高いけど、日によって食べる量がバラつくウシの乳量は少ない、ということです。

発表者らは、毎日の濃厚飼料の摂取量を変動させないような飼い方が大切だと言っていました。
広い放牧地で牛が飼われていると、天候や体調などが日々変化するので、ロボットに戻ってきてエサを食べようという気持ちにムラがでるのかもしれませんね。

シンシナティ名物というチリという料理。辛いミートソースとチーズをドッサリかけた延びきったスパゲティ