乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

作物を育てられない土で、ウシのエサを育てる話

私は、4年生対象に、乳用家畜飼養学実習を開講しています。


4年生は、卒業要件を満たしている学生が多く、履修者はあまり多くはありません。

人数が少ないので、フットワークの軽い実習ができるので、今回は、技師に学内圃場(飼料・牧草畑)を案内してもらうという内容を企画しました。

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始めに訪れた圃場は、学内でも、比較的良好な土地で、元気に飼料用トウモロコシが生育していました。
5月中旬に播種をして、草丈120cm位でした。

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次に訪れたのは、水はけの悪い圃場です。
およそ55ヘクタールの広い学内圃場、少し移動すると、土の性質が大きく変化します。

先週まで降っていた長雨の影響で、圃場には、ところどころ水たまりができていて、水の抜けが悪いことが一目でわかります。

 

これは、大学のあるこの辺りでは、強い粘土が中心的な土壌であることを物語っています。
粘土は、ひとたび水を含むと、なかなか水分が抜けません。

 

水はけの悪さは、トウモロコシを始め多くの作物にとって、もっとも苦手とする条件です。
いつまでも水が抜けない土壌では、根張りが悪くなり、生育が停滞してしまいます。

水はけの中程度に悪い畑では、トウモロコシの草丈は、80~90cmでした。

 

こういった畑では、暗渠排水といって、土中に素焼きの土管を埋めて、土の中にたまった水を抜く工事をしています。
また、硬い粘土を柔らかくするために、石狩川で採れるフカフカの泥炭土を客土するといった工夫も続けています。

いずれも安くはない支出がかかりますが、少しでも良い土、良い草を取るために、本学では努力を続けています。

 

ちなみに、大学の位置する江別は、陶器などの焼き物やレンガが有名で、毎年7月には「やきもの市」というお祭りが開かれます。

このことは、江別が、良質な粘土が算出する地域であることを表しています。

 

最後に、訪れた圃場は極めつけでした。
粘土がきつく、水が全く抜けないばかりか、隣接する野幌原始林から鹿の群れが押し寄せてきて、トウモロコシや牧草を食べてしまいます。

 

トウモロコシの生育も、誰かさんの頭髪のようにポヤポヤです(^^;)

草丈は、食害のない株でも、70cmしかありませんでした。

 

水たまりがある上に、鹿にかじられ、膝丈くらいしかないトウモロコシ畑は、寒々しい光景でした。

 

↓鹿の足跡だらけ

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↓鹿にトップをかじられています

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このような悪条件になぜ酪農大がつくられたのか、古い先輩の職員や教員から、聴かされてきました。

 

本学の設立者である黒澤酉蔵は、作物や米を作ることのできない、悪条件の土地で、人の食料を生産するためには、牛を飼うしかないと考えたそうです。

 

たしかに、人が直接食べられる農作物を育てられない土地であっても、草なら生えます。

 

草を育てて、牛に食わせ、牛から乳や肉を得る。

こうすることで、本来なら食料を得ることのできない痩せた土地であっても、食料生産をすることができます。

 

そのようなロマンに満ちた話を織りまぜ、学生に解説しました。

技師からは現場ならではの苦労話や工夫を聞くことができました。

現場でのディスカッションは、学生からも活発に質問が出る、熱気に満ちた実習になりました。

 

教員が一方的に話す講義も良いですが、現場を観て、現場のプロから学ぶという、スタイルも良いものです。

学生だけではなく、私自身も、気づきに満ちた実習でした。


土や自然、土地の歴史的背景からも学びがある、ブラタモリのような、楽しい時間でした。