乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

牛に味噌汁

先日の学生ゼミ発表。

3年生のF君が、牛に味噌汁を飲ませることについて、発表しました。
(おもしろいテーマを見つけてきたものです)

 

以下、彼の発表を中心に紹介します。

 

まず、味噌って何から作られるのでしょう?

主原料は大豆ですね。

大豆を主体として、米や麦、塩や麹を使った発酵食品です。

 

では、麹って??
麹、糀(こうじ)とは、米、麦、大豆などの穀物にコウジカビなどの食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたものである(ウィキペディアWikipedia))。

→ここのところ、発表者自体もあいまいでした(^^;)
麹はカビですからね~

 

カビは強力な酵素を出して、タンパク質、脂質、デンプンを分解してくれます。
これら栄養素が分解されることで、アミノ酸脂肪酸といった旨み成分や、糖といった甘みやエネルギーの素が作られます。

日本酒、カマンベールチーズなど、いろんなところで麹やカビは利用されていますね。

 

味噌の栄養素には次のようなものがあげられます。
タンパク質、アミノ酸、コリンやビタミンEが豊富です。

 

コリンって??
聞き慣れない栄養素かもしれません。
コリン(Choline, Cholin)は、循環器系と脳の機能、および細胞膜の構成と補修に不可欠な水溶性の栄養素である(ウィキペディアWikipedia))。
これを読んでもよく分かりませんね(^^;)

牛の栄養にとって、コリンは大切な役割を果たします。牛は草食動物なので、脂質の代謝が苦手です。コリンは、そんな牛の手助けをして、脂肪を上手に燃やして(代謝して)くれます。

牛でも人でもそうですが、身体が痩せていくとき、皮下脂肪といった体内の脂肪が血液中に溶け出し、エネルギー源として利用されます。

 

この、血液中の中性脂肪を、肝臓でエネルギーとして利用するときに、燃えカスが作られます。

この燃えカスをケトン体といいます。ケトン体が体内に蓄積してしまうと牛は体調不良になり、この状態をケトーシスといいます。

 

コリンは、このケトーシスを予防する、すなわちうまいこと脂肪を完全燃焼してくれる物質として期待されています。

 

これら栄養素に加えて、味噌には塩が含まれていますよね。
牛は塩を大量に必要とする生き物なので、味噌に含まれる塩は好都合です。

 

このように味噌に含まれる栄養素はとても魅力的です。
ただ、牛にはルーメンがあります。
ルーメンには微生物が無数に生息していて、こいつらが余計なおせっかいをするんですよね。。。

 

味噌に含まれる貴重な栄養素ですが、ルーメン微生物によってあらかた分解されてしまうと推測されます。

実際に牛が栄養を吸収する小腸まで、これら機能性に富んだ栄養素が届く確率は高くないと考えられます。

せっかく与えた栄養素が牛に利用されない!

なんともったいないことでしょうか。。。

 

そういったリスクはありますが、本学でも、分娩したての母牛に、味噌をバケツのぬるま湯で溶いて飲ませています。
もうかれこれ10年以上になるでしょうか。

 

約1kgの味噌をバケツに溶いて与えるのですが、母牛はあっという間に飲みきります。

 

この飼料用味噌の由来がなんとも潔癖な日本を象徴しています。

 

味噌は古来から伝わる発酵食品で、ほとんど腐る恐れはありません。
ですが、小売店で味噌を流通するには、賞味期限(消費期限?)が必要になります。
この期限が迫ったものはメーカーに回収されるか、捨てられます。

ヒト用に再販売は不可能です。

ですが、味噌の品質は全く劣化していません。
傷んでないのに売ることも食べることもできず、捨てるしかない。
なんとももったいない話しです。

 

そこで困った味噌メーカーが、ウシのサプリメントとして販売を始めたということを、私は聞きました。品質劣化していない回収した味噌を、飼料用として再販売したというわけです。

 

そんなわけで、栄養満点の味噌汁を、お産を終えた母牛にお疲れさま、ありがとうという気持ちで飲ませています。


たとえルーメン微生物たちに、ほとんどの栄養分が分解されたとしても、牛が喜んで、がぶ飲みするので、まずはよいことなのだと現場では判断しています。

今回は、学生の発表からヒントを得てブログ記事にしてみました。

 

 ↓味噌汁を飲む母牛(バケツの陰に赤ちゃん牛)

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