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コワすぎる父親は子どもの心に重しとなる:映画「英国王のスピーチ」

アマゾンでダウンロードして、JRの車内で「英国王のスピーチ」を観ました。

 

 

吃音(どもり)があって人前で話すことが苦手な一人の男性。しかし、彼はイギリス王家に生まれ、兄が国王を降りることになったの、国王にならざるを得なくなってしまいます。

後のジョージ6世 (イギリス王)です。

 

国王になると民衆の前でスピーチをしなくてはいけません。時は第二次世界大戦前夜です。ラジオや録音技術が急速な勢いで普及し始めており、スピーチを届ける対象も全世界に広まっています。

 

彼は悩み、苦しみます。彼とともに、奥さんも悩みます。そうし中に出会ったのが、言語療法士の先生。


この映画は、国王本人に加え言語療法士、奥さんの3人が力を合わせて、苦手なスピーチに取り組むという感動的な物語です。

 

以下、映画を観ての気づきです。

・映画の冒頭にあった1925年当時のイギリスの勢力紹介にまず驚きました。

あるスピーチをBBCがラジオ放送する場面があります。そこでアナウンサーが「このスピーチは世界の人口の4分の1、58の植民地、自治領に届けられます」と紹介します。
いやいや、当時のイギリスの勢力範囲は全世界に及んでいたのですね。世界史などで知ってはいましたが、目の当たりにするとそのすごさが分かります。大英帝国、相当えげつない国だったのですね。(映画の本質とは関係ありませんが。。。)

 

以下、映画そのものの気づき3点。

・夫の苦しみに寄り添う妻の愛情に感動
夫の悩みを我がことのように受け止め、ともに悩んでくれる妻が描かれています。夫を叱ることなく、変に励ますこともなく、暖かく包み込むように支える妻。一方で、ドクターを見つけてきたのも妻ならば、一緒に受診しようと夫の背中を押すのも妻。
配偶者を支えるのは当たり前のことのように思えますが、怒りや叱咤をせずに受容だけで支えるというのは難しいことではないでしょうか。相手の全てを受け入れることで支える、これぞ真実の愛でしょう。

 

・プロは媚びない、媚びないから信頼が生まれる
言語療法士の先生は、相手が国王であっても全く媚びず、フラットな関係を求めます。その毅然とした態度に、最初国王は戸惑い、怒りを覚えますが、やがて二人の関係は信頼から友情へと深まっていきます。
このことは、相手に媚びているうちは、相手も心を開けないことを示唆しています。

 

ちなみに、国王がドクターに対して「平民」という言葉を発します。「平民」、トランプゲームの「大富豪」以外では初めて目にしました。当時のイギリスには、厳然たる階級社会だったことが伝わってきます。

 

・国王のどもりの原因を探っていくと、幼少時の父親(王家)の厳しいしつけに行き着きます。「お前ならできる(はずだ)」「きちんと話しなさない」「なぜ、こんなこともできないのだ」といったコワい父親によって、幼少時の王子は心に深い傷を負、それがどもりの原因になっていることが分かってきます。左手を右利きへ強制したり、X脚を装具で強制したり、妻とは逆に、父は息子を受け入れないで育ててしまったことがわかります。

私も父親はコワかったです。子どもたちも、私のことをコワがっている様子が場面場面で見て取れます。学生や同僚からも子ども時代の父親が怖かった話しをよく聞きます。
あるレベルまでであれば、父親の怖さというものは子どものしつけに取って欠かせないものかもしれません。ですが、「~であるべきだ」的な押し付けをやり過ぎると子どもの心に恐怖心を植え付けてしまい、のびのびとした自立心を消し去ってしまうことを、この映画は示しています。

気の毒な国王。


ですが、ラストに向けて、3人の頑張りが感動的な実を結びます。

家族、夫婦、上司と部下、これらのあり方に悩んでいる方、あるいはコンプレックスをお持ちで克服したいと悩んでいる方や人前で話す機会の多い方など、幅広いヒトに参考になる映画ではないでしょうか。

 

最後に、ミニトピックス。
国王がヒトラーの演説映画をみて、演説スキルに感心する場面があります。
興味深い場面でした。