乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

自分で自分の仕事のテーマを見つけるのが仕事

複雑なタイトルですが、大学教員の仕事のすすめ方をひと言で表すと、このような言い方もできます。

 

大学の研究室体制には、大きく二つの形態があります。

一つは講座、ユニットといった、複数教員がチームで活動するスタイルです。
一般には、○○学研究室という名称になるでしょうか。

 

もう一つは、一人一研究室です。
正式名称○○学研究室ですが、個人名+研究室という呼び名も通用します。

 

前者の研究室では、若手研究者が新規採用になると、講座の柱となる研究テーマと自分のオリジナルの研究テーマのバランスをとりながら、仕事に打ち込むことになるでしょう。

 

一方、後者の一人一研究室では、一から柱となる研究テーマを構築しなくてはいけません。

 

前職で、バリバリの研究生活を送ってきた研究者が、大学に転職する場合はそれを引き継げばよいので大きな問題はありません。

ですが、若手研究者の場合は、これまでの短い研究生活でのテーマが大学で求められる研究テーマと合わないことが珍しくありません。

 

そこで、若手教員は、今後の柱となる研究テーマを模索することになります。
すぐに見つけられればよいのですが、そうでなければ様々な人脈を頼って、勉強を重ね、ヒントを得ていくことになります。

 

畜産学者の場合は、産業としても貢献できないといけないので、自己満足なテーマでは評価されません。

テーマを探すことが難しくて、場当たり的なつまみ食いの研究で満足してしまうヒトも少なくありません。

 

私のケースを振り返ると、今からおよそ20年前、20代後半で、学位論文もない状況で着任しました。その後、数年間の助手時代を経て一人研究室体制に移行しました。


研究の大きな方向性(ルーメンの生理と反芻行動)は当初からぶれませんでしたが、最初の10年くらいは、そこからさらに掘り進めたコアテーマを見つけられず、行き当たりばったりの研究でもがき苦しみました。
10年ほどたって、30代半ばとなり、ようやくコアなテーマを手にすることができ、明確な目標も定まりました。

蛇足かもしれませんが、研究テーマが決まらない間は遊んでいたかというと、そうではありません。授業や学生教育といった、教員としてのマストな仕事はこなしてきました。

特に私たちのような私立大学では、教員の業務全体に占める授業や学生指導の比率が、国立大と比べて大きいです。教育活動だけでお腹いっぱいとなりがちなので、研究に力を割くためには相当なエネルギーが必要になります。

 

教育と研究の両輪が回って、一人前の大学教員といえますが、片輪走行で苦しむ若手教員も少なくはありません。

 

この春、私の在籍する研究棟に、大学院を出たばかりの若手教員が着任しました。
彼は今、研究の太い柱を探して奮闘しています。
これまで歩んできたアカデミックな組織から、現場指向で実学重視の大学に移り、研究スタイルがガラッと変わりました。

 

彼が、不安の中、長い期間悩まなくてすむように、少しでもサポートしていきたいと考えています。

仕事は与えられず、自分で考えて、世の中に貢献できるテーマを探す職種、それが大学教員です。


テレビなどのメディアでは、多くの大学教員が日夜登場します。

好きなことをやって給料をもらい、華やかだったり、楽しそうと思うかもしれませんが、成功するまでには苦悩の時間が横たわっていることを、今日はお伝えします。